宮崎県のほぼ中央、西都市の丘陵地に立つと、なだらかな台地のあちこちに丸い盛り土が連なっているのが分かります。これが西都原古墳群です。南北4.2km、東西2.6kmという広大な範囲に319基もの古墳が集まっています。国内でも屈指の規模を持つ古墳群として、1952年に特別史跡に指定されました。
古墳と聞くと歴史の教科書の一項目に思えるかもしれませんが、現地に立つとその印象は変わります。柵で囲われた遺跡ではなく、芝生の台地に古墳がそのまま点在する公園として整備されているのです。散歩をしながら、3世紀末から7世紀にかけての墓を次々に目にすることになります。
いつ、誰が、何のために造ったのか
西都原古墳群は一度に造られたわけではありません。3世紀末から7世紀にかけて、およそ400年の間に築かれた古墳が積み重なっています。分布や築造時期の違いから、10〜13ほどの小さな群に分けられているのが特徴です。長い年月をかけて、この地域を治めた人々が代々ここに墓を造り続けたと考えられています。
中でも際立つのが、群の中央付近に並んで立つ男狭穂塚と女狭穂塚です。男狭穂塚は帆立貝のような形をした古墳としては国内最大級、女狭穂塚は前方後円墳として九州最大級とされます。いずれも墳長170m台という規模で、5世紀前半に築かれたとみられます。これほどの墓を築けたのは、相当な力を持つ首長だったはずです。だが、誰が眠っているのかは、今も分かっていません。
この2基は宮内庁によって「陵墓参考地」に指定されています。皇室の祖先に連なる人物が眠っている可能性がある土地として、現在も柵の内側には立ち入れず、発掘調査もできません。被葬者について有力視されているのは、日向地方の豪族であった諸県君(もろかたのきみ)の一族という説です。だが、あくまで諸説のひとつにすぎません。分からないことが多く残っているというのも、この古墳群の実像です。
地下に眠る、もうひとつの墓の形
西都原古墳群を特徴づけるのは、大きな前方後円墳だけではありません。地表からは古墳と分かりにくい地下式横穴墓が複数確認されており、南九州に特有の埋葬形態として知られています。地面を垂直に掘り下げてから横に穴を掘り、遺体や副葬品を納める形式です。九州の中でもこの一帯に集中して見られる点が注目されてきました。
古墳群からは、家の形や船の形をかたどった埴輪(はにわ)も出土しています。埴輪は古墳の周囲に並べられた素焼きの造形物で、当時の建物や暮らしの様子を伝える資料です。重要文化財に指定されているものもあります。実物の多くは博物館で保管されているため、現地で目にするのは主に古墳の盛り土そのものです。それでも、400年分の墓が並ぶ光景は見応えがあります。
西都原考古博物館の使い方
古墳群を歩く前に、まず立ち寄っておきたいのが宮崎県立西都原考古博物館です。園内の一角にあり、入館は無料。展示では、出土した埴輪や副葬品のレプリカに実際に触れられる体験型のコーナーが用意されています。古墳群がどのように調査され、何が分かっているのかを予習してから歩けます。
古墳は現地で見ても「盛り上がった丘」にしか見えないことが多いものです。事前情報なしに歩くと、魅力が伝わりにくいのが正直なところです。博物館で古墳群全体の分布図や築造時期の解説を頭に入れてから外に出ると、同じ丘の見え方がまったく変わってきます。開館時間や休館日は季節・年によって変わることがあるため、訪問前に公式サイトで確認しておくと安心です。
歩き方と季節の楽しみ方
園内は舗装された道と芝生の丘が続いており、スニーカーがあれば十分に歩けます。まずは男狭穂塚・女狭穂塚と博物館の周辺を歩き、余裕があれば奥の古墳群まで足を伸ばすのがおすすめの順路です。夏は日陰が少ないため、帽子と飲み物を持っていくと安心でしょう。
もうひとつの魅力が季節の花です。春には桜と菜の花が同時に咲き、丘全体が黄色く染まる時期があります。秋にはコスモス畑が広がり、古墳と花が同じ視界に収まる景色は西都原ならではのものです。花の見頃は年によって前後するため、訪問時期が近づいたら西都市や観光協会の最新情報を確認しておくとよいでしょう。
訪れる前に知っておきたいこと
- アクセス:宮崎市内から車で国道219号線経由でおよそ40分、東九州自動車道の西都インターチェンジからは約10分。宮交シティから路線バスも出ていますが本数は多くないため、時刻を事前に確認しておくと安心です
- 所要時間の目安:博物館見学と主要な古墳の見学で1〜2時間、じっくり歩くなら半日
- 駐車場:園内に無料駐車場が複数あり、花のシーズンは混雑・渋滞することがあります
- 注意点:男狭穂塚・女狭穂塚は陵墓参考地のため柵の内側には入れません。遠目からの見学になります
教科書的な年表としてではなく、丘の上を歩きながら「誰が、なぜここに墓を造り続けたのか」を考えてみる。分からないことが多く残っているからこそ、西都原古墳群は一度歩いてみる価値のある場所です。



